帽子
俺はつむじしか見たことがない。
帽子というのは頭の上に乗っかるものだから、常に持ち主のつむじを見ることになるのだが、そうではない。
俺の持ち主は特別に背が高いのだ。
町を歩けば目下に丸い頭がぞろぞろと行き交い、その頭にかぶさった帽子達もちらちらと俺を見上げる。長い脚で悠々と歩く持ち主は冷たくてゆるい風を作り、持ち主の熱い頭を包む俺にさらなる心地よさを与える。
この背の高い持ち主よりもさらに高い位置から町を見下ろす俺を、この先きっと見下ろす同胞は現れないだろう。
ひやい空気が流れる緑豊かな道を歩く持ち主が、ふう、と一息をつきながら空を見上げると、そこには雄大な山にかぶさる白くて大きな笠があった。