鉛筆
僕は今日までの命だ。
僕に付けられた銀の補助具をやわく握ってカリカリと紙に滑らせていく荒れた手は、広い紙のほんの端の方を細かく細かく染めていく。
僕が削れれば削れるほど彼の呼吸はどんどん浅くなって、そのまま止まりそうになった頃。
僕はざり、と大きく削れて彼の呼吸を取り戻す。
はあ、と肺にたまった呼吸を吐き出した彼は、柄が手油で鈍く光ったナイフを取り出し、慣れた手付きでもうほとんどなくなった黒鉛を尖らせた。
じ、と僕と目を合わせる。
そしていつもより軽く僕を紙に滑らせ、銀の補助具を抜いた。
ああ、いよいよだ。
おつかれさま、と声がかけられ、カコン、と音が鳴る棺桶に吸い込まれた。
最後に見た、あの黒くて美しい町並み。
僕はあの町並みの一部になったのだ。
何も見えない闇の中でそっとあの町並みを想う。
モノクロの家の間を自由に飛ぶ、鳥になる夢を見た。