口がないモノたちのSS

植物、モノ目線のSSを投稿しています

SS

鉛筆

SS

僕は今日までの命だ。 僕に付けられた銀の補助具をやわく握ってカリカリと紙に滑らせていく荒れた手は、広い紙のほんの端の方を細かく細かく染めていく。 僕が削れれば削れるほど彼の呼吸はどんどん浅くなって、そのまま止まりそうになった頃。僕はざり、と…

ランドセル

SS

不揃いな合唱が聞こえてくる。春の柔らかい日が差す静かな教室で、僕はじっとその歌を聴いていた。チョークで白くすすけた黒板に書かれた「卒業おめでとう」の文字はやけに非現実的で、明日からここには来ないことが信じられない。6年間、あっという間だった…

いちご牛乳

SS

今日はバレンタインデー。年に一度、僕が小学校に行く日。 僕が乗ったバッドが運ばれた瞬間、教室に歓声があがる。だって僕は人気者だから。 頬を上気させた子供たちは小さな足をぱたぱたと動かしながら配膳の準備をする。小さな手で僕をつかみながらやった…

エコバッグ

SS

ぱさり、と軽い音を立てて大きく伸びをした私は、買い物カゴの中を見てうわ、と気が重くなった。 リカは心配性なせいか、食料品や生活用品をいつも余分に買い込んでしまう。 私はそこまで小さいほうでもやわでもない。 が、さすがにカゴ一杯に収まる程度が持…

帽子

SS

俺はつむじしか見たことがない。 帽子というのは頭の上に乗っかるものだから、常に持ち主のつむじを見ることになるのだが、そうではない。 俺の持ち主は特別に背が高いのだ。 町を歩けば目下に丸い頭がぞろぞろと行き交い、その頭にかぶさった帽子達もちらち…